| 「howling」 バイトの帰りだった。午後5時から翌朝8時半まで仕事をしていた。 恐ろしく楽なバイトだった。ノートパソコンを持ち込んで曲を作っていた。 いつも通りバスに乗った。午前10時頃だった。近所に養護学級のある高校があって よくそこの生徒たちと一緒になるが、彼らの登校時間はてんでばらばらであった。 さすがに午前10時ともなると生徒たちの姿は見受けられないが、この日 誰も乗車していないバスに乗ると、後から丸顔で背の低く、 なぜか微笑を絶やさない少年が僕に続いて乗車した。 僕は一番後ろの席に陣取って宝焼酎の赤キャップを飲んでいた。 少年は、車内はガラ空きだと言うのに僕の目の前に座った。 彼は背筋を伸ばし、じっとして微笑んでいる。学帽からのぞいている襟足は 生まれた時からそうであるかのごとく整えられていた。 彼は車が走り出すと、夢見心地の微笑みを続け、右手でバスのフカフカした シートを優しく撫で始めたのである。 その時、僕の酒をすする手が完全に停止した。一瞬止まったのではなく、 まるで「ダイヤモンドの弾丸に額を打ち抜かれた」かのように、完全に心臓が 停止したように止まったのである。 その直後である。頭が頭の中でハウリングを起こした。 ジザメリばりの轟音があふれ、彼方からこの曲のピアノフレイズが繰り返し鳴り響くのを 確かに聴き取ったのである。 しばらくして僕は我に返り、慌ててモバイルレコーダーを取り出し、ビルトインマイクに 唇を寄せハウリングする頭を宝焼酎赤キャップでシャキッとさせて、 間近の少年に悟られないように小声でそのフレイズをかろうじて一回だけ口ずさみ 吹き込んだのである。 5分後、いつものバス停で下車した。シートを撫でながら微笑み続ける少年のほか一人も乗車 していないバスの車内が気になって仕方が無かったが、僕はショックでうつむいたまま信号を 横切り帰路についた。 なんと言う体験をしてしまったのだろう!! この曲は彼が僕に授けたものであることに疑いは無い。一体これは。。。。。 shinobu |
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| "howling"
I finished work and was going to come home. |
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